リアプノフ指数値の正負によりカオス性の有無を判定

二重振子の振幅が生成する様な複雑な時系列信号であっても、幾つかの例外を除けば、 時系列信号の生成ダイナミックスが変化しない限り(必ずしも「ゆらぎの程度」とは表現できないかも知れませんが,)最大リアプノフ指数を計算することが可 能で、その指数値の正負によりカオス性の有無を判定することが出来ます。音声信号の分析においても、当初は佐野澤田のアルゴリズム等を形式的に適用して最 大リアプノフ指数を計算していましたが、音声信号の複数の母音はそれぞれ異なる生成ダイナミックスを有しているので、一つの母音を数秒継続して発話した様 な場合を除けば、近似としても最大リアプノフ指数では適当ではないことが分かりました。

下図は,「次は高円寺」と発話した場合に観測される 各母音の生成するストレンジ・アトラク タを並べたものです。ある音韻(母音と子音)が別の音韻に変化する状況では,ストレンジ・ アトラクタは複雑に形状を変化させるため,視覚的にはある一つの形状を有している様には 見えません。ゆらぎを評価するためには,ストレンジ・アトラクタが視覚的に一定の形状を再 構成している様に見える時聞が(短くても)百ミリ秒程度は継続していることが必要です。 当所では,これに対応する状況を「ストレンジ・アトラクタが安定な状況」と呼んでいます。doc-9

CE は,①先ず音声信号のサンプリング周期を設定し,②全てのサンプルを起点として形式的に最大リアプノフ指数を計算しCEm(C.E. micro )とし,③評価対象のフレーズ等の 音声データのから算出された全てのCEmに対して統計的な処理を施してCEM(C.E. Macro)を計算する,と言うものです。 現在,音声データから算出する指数値は, CEmと区別するため, CEとは呼ばずにCEM値と呼んでいます。

従来アルゴリズムによりCEMを計算しようとした場合, 2002 年当時は,最高性能のパソコ ンを使用しても 1秒間の音声信号に対して 10 時間以上の時間が必要でした。当時,カオス 論的な発話音声分析技術の実用化のためには演算処理時間の短縮が最大の課題でした。 そこで,一般的な時系列信号を対象とするものではなく, 強い周期性を有する音声信号の特徴を利用して音声信号の処理を高速化するアルゴリズム(SiCECA: Shiomi’ s Cerebral Exponent Calculation Algorithm )を考案しました。 米国製 CRAY-MTA2 (シリアル番号 2番の初号機)上に実装されたSiCECAにより, 2002 年に,初めて 1秒間の音声データを1秒以内に処理することが可能となり,その後の研究開発の効率が著しく改善されました。